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「神々の黄昏」幻想

 夜ベッドに入ってから、久々にFMをつけた。と懐かしい音楽が流れてきた。おお!そうか、もう暮れだ、例のバイロイト音楽祭だ。
 昔よく聴いていたものだ。これを聴かなくなってどれほど経つだろう。・・・しかし、ワグナーを聴くともうけない、捕らえられて身動きできない。夜一人で暗い部屋の中で聴いていると、苦しくなって不安に襲われる。

 ワグナーを聴くと、いろんな言葉が浮かんでくる。インセスト・タブー(近親相姦)、神話的根源的不安など、根本的に生存を脅かすような言葉ばかりだ。この『ニーベルンクの指輪』第三夜にしても、結ばれる二人は英雄とその叔母だ。犯してはならないことを犯すこと、そこにはあまりにも甘美なものがあろう。小生はこの序幕の二人の音楽を聴くと、全身鳥肌。もう魂がぐじゃぐじゃになってしまう。完全なエクスタシーを味わう。『トリスタンとイゾルデ』なんて怖くて聴けないよ。

 神話というものの根源性。それはかならずタブーを犯すことがら始まる。アダムとイヴは禁止の実を食べる。イザナギもイザナミの言を破る。オイディップスは父を殺し、母を犯す。聞くも涙、語るも涙の、お互いを知らずして交わる兄妹軽王と衣通姫や忠臣トリスタンと王妃イゾルデの物語。・・・

 われわれ人間が社会をなして生きていかなければならない不思議な宿命。小生は想像する、理由がどうあれ殺人などを犯してしまった人の心の内を。たとえ、ばれずにいたとしても、いやむしろばれないがためにいっそう、どんなに根源的な孤独感に苛まされているか。社会から離脱してしまうというような根源的な感覚。宇宙の果てに飛んでいっても、これほどの孤独感というか離人感はないであろう。ことはもっと人間存在の本質に関わるのだ。どんなにか、どんなに細い糸ででも社会と繋がっていたいと渇望することか。と想像する。

 どんなに世の中が進歩しようと、法整備されようと、神話の問いかける問題は生き続ける。百年くらい前、フロイト先生は神話と神経症の関係に言及したが、われわれの心の中は深い闇であることは誰でも感じる瞬間があるだろうし、いわゆる一流小説家はその辺を巧みな手腕で追及する。      
                                    

 ワグナーの楽劇というと、また小生はドイツ民族の運命なんて言葉も浮かんでくる。ナチが政権を取ったときの映像をテレビなどで見ることがある。小生は、あの第一次世界大戦後、まったく疲弊してしまったドイツに希望の光を与えたヒトラーに向かって大衆が歓喜に咽んで「ハイル・ヒトラー」を叫んでいるところを見て、大いに感動する。あのときこそ偉大なドイツ民族の最高の瞬間だったと感じる。その後、徹底して検閲を行うナチズムは大衆操作にワグナーの『マイスタージンガー』を利用したという話を聞いたことがあるが、尤もなことであると思った。

 しかし、彼、政治的天才、誇大妄想の狂人ヒトラーとて人間だ。カラー映像で、山荘にエヴァ・ブラウンと映っているところを見たり、ベルリン陥落直前に地下室で二人して自殺したという話を聞くと、ナチズムの根底にあるもの、偉大なドイツ民族の底流を流れるものを感じる。それは一種の理不尽なほどの内面性・・その本質は『マイスタージンガー』ではなく『トリスタンとイゾルデ』に露骨に出ているのではないか。・・・ドイツ的なるものとはなにか?・・そんなことお前に分かるかと言う声が聞こえてくるけど、小生の思うに、ニーチェやリルケに感じる余りにも土臭い、くそ真面目な、あの比類のない繊細さとでもいうか・・・ラテン民族にはないもの・・・ルターの血・・・
 そこのところを一人悩ましく空想していろいろ本を調べていた頃、トーマス・マンのエッセイに出くわし、そこに、小生と同様の感想が書かれていた(小生の誤解だったかもしれない)のを目にして、わが意を得たりと思ったことを想いだす。

 そしてまたこんな風にも思う。偉大なものは、また恐ろしいものを蔵していると。軽佻浮薄の方がいいのだ。殺人などとは比べ物にならないが、不倫というものがある。いまどき珍しくもないらしいが、ただ本来そうおおっぴらに言うことはできないはずである。もっとも、それを逆手にとって売名に走る三流タレントがあるが。しかし、本来惚れてはいけないような相手に惚れあって付き合うということは、当人にしか分からない深刻な一種の反社会性があるはずだ。そこに人間の心の闇がちらっとのぞく。

 それを、週刊誌は誰某が不倫したのどうのと安っぽく書きたてる。人は噂話が大好きであるから。それはまあ無邪気でいいが、しかし当の本人までもが、痛切であるべき自分の気持ちや行為を週刊誌並みの言葉で省みるのはどうか。浅く、刹那的で真剣みのない、情熱もなく、危険もなく、まあ安全でいいが。



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テーマ : 文明・文化&思想 - ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

有性生殖

そうですね。男女があるということは不思議ですね。生物学的にはおそらく遺伝子の交配によって新種を絶えずつくり、環境の変化に対応するという知恵が生命にあるのでしょうが、人間にとってはもっとも関心のあるもの、歌の最大の材料となっていますね。
音楽は小生にとって恐ろしいものでもありますから、ここ何年と遠ざかっています。でもときには聴きたくなりますが・・・

ひかりさん

カラスの話面白かったですか。ではまたこんな失敗談書きますから寄ってください。

出逢い

風に耳を澄ませば求め合っている…男と女は不思議な生き物ですね。磁石のように引き合っては離れていく。
うたのすけさんは音楽という生き物に全身全霊を捧げておられるように感じました。音楽を聴く人と聴かない人(音楽に興味がある人、ない人)。それは好みや関心の有無の問題もあるのでしょうが、音楽と運命的な出逢いをしたかしなかったかということも少なからず関係しているのかと思うのですが。

人の心を揺さぶる音楽に脱帽。

神話に哲学に音楽。
読後にリッチ感を味わいました。

No title

はじめまして。

知らない言葉がたくさんあるのに、なぜでしょう・・・スラスラとワクワクしながら読んでいました。
更に!優しい文章なんですもの。 

カラスのお話には、笑ってはいけないと思いながらも、クスクスとしてしまいました。v-353

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