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戦後の心理

 それにしても、日本の受けた傷は深かった。それはあまりにも深い。何か黒い塊がどーんと日本の心の底にぶら下がっていると小生は感じる。どうすることもできない。この苦しみから当分逃れることができそうにない。表面上はにこやかな顔をしていることができる。苦しみとは無縁の快活さを一時的には装うこともできる。しかし、じつは片時もこの苦悩から解放されることはないのである。
 日本の受けた傷。それは多くの人が死んだというものではない。諸都市が破壊されたからでもない。原爆を落とされたからでもさらさらない。いったいなんだろう、この苦しみは。

 昭和二十年八月一五日。「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び・・・」あの日は暑かったはずだが、誰もそんなものを感じることはなかった。全くの空虚であった。空は青かったはずだが、誰の目もぽっかりとした巨大な穴しか見ていなかった。戦後生まれの小生はその時のことを知らないはずだと人は言うかもしれない。しかし、あの日をじっさい経験したか否かは大して問題ではない、この今なお続く重苦しさを感ずる者にとっては。あの完全な真空の日があったということを知り、この苦悩の中に居るということで、すべてが明瞭だ。 
 この心理的な深い心の傷。このいつ晴れると知れぬ無明長夜。永らくこの状態が続いた末に、苦悩を苦悩と感じることもないほどひどい苦悩の中に居る。それは絶望でもあり、また自己欺瞞のようでもあるが、じつは日本はいまだに眠っているのだ。あたかも〈あの日〉強力な催眠術者によって眠らされ、そののち術者は、覚醒の手の一叩きを忘れてしまって、どこかへ失せてしまったようなものだ。眠ってしまった日本は自力では覚醒しえない。目が覚めた、もう大丈夫だと言ったとしても、それはやはりどこかおかしいものがあって、催眠状態においてそう言っているにすぎない。

 いかなる心の傷も時が癒してくれるという。わが身を省みて小生もそう思う。しかし、それは意識の上でその傷を思い出すことが少なくなった。あるいは思い出してもいわば表象として出てくるだけで苦しさを随伴することはないということであって、じつは性格形成のうえで大きな影響をいまだにもっているものであり、己の行動において(無意識的ではあるが)それがどうしても出てくる。

 いくら頭のいい人でもそのような催眠状態にあると、現実との心からなる一致がもたらす柔軟さを欠く。考えや動きに、個々の点ではおかしくなくても、全体としてぎこちなく、観念的で非現実的なものがでてくる。空想に走ったり、逆にじっさい上手く処理できても、あまりに事務的で理想を欠いていたり。

 この傾向。頭で分かっても、現実の行動では歪んでしまう。これを少しでも治す手立てはないものだろうか。
 分からないけれど、もう性格はある程度しようがないとして、小生は思うに、それにはとにかく良識に還ることだ、としか言えない。しかし、この語はなんと誤解されやすい語であることか! これはもう現代日本では死語となっている。あるいは何でもありと同義語となってしまっている。それならば、〈常なるもの〉と言おう。われわれの周りには〈常ならぬもの〉で溢れている。流行で溢れている。それは群衆の中にいる自分であり、他人を意識してばかりいる自分である。流行を追うことであまりに忙しく、不易に思いを致すことが難しい。〈常なるもの〉〈不易〉。西洋人なら〈神〉と言うかもしれない。

 ある世代は、ひとつ前の世代がなした誤りを知ることによって優位に立ちえるだろうか。もし今の世代が目前のなすべきことについて〈常なるもの〉と〈常ならぬもの〉と区別がつかなかったら、ノーである。


   

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テーマ : 文明・文化&思想 - ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

No title

小生いい歳をして暗中模索です。

No title

昭和20年8月15日というのは、何とも言えない日になってしまいましたね。私も完全無欠な民族など存在しない、と自分に言い聞かせていますが、中々色々な事を超克したり払拭したりするのは難しいですね。理論武装と共に、文化力、教養、克己心その他・・・やっぱり苦しくて難しくて大変な事なんですね。。。

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