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『日本語が亡びる時』

久しぶりに最近出された本を買って読んだ。水村美苗著『日本語が亡びる時』

 いま日本語の文章を読んで心をときめかせる日本人がどれだけいるであろう。この文章の言い回しのなんと絶妙なこと、なんと繊細な陰影に満ち溢れていることか、もっとこの美に浸っていたい、と本を読んで感じる日本人がどれくらい居るのであろう。と思うことが時々ある。

 今や、科学論文は英語で書かなければ話にならないし、政治経済の現場では英会話が必須である。そのうち文学も英語で書くような時代になるかもしれない、そうすると世界に冠たる「日本文学」も消えてしまう。そういった危機感をアメリカ在住の小説家である水村氏は強くもっておられる。

 水村氏は断定して曰く「文化とは〈読まれるべき言葉〉を継承することでしかない」。
 しかし現代日本の為政者は〈読まれるべき言葉〉を教育の現場から消しつつある。

 「中国の文化大革命は一党独裁のもとでおこったことである。クメール・ルージュの虐殺も長年にわたる植民地支配、それに続いた腐敗政権、さらにはヴェトナム戦争の波及効果のせいでおこったことである。しかし、日本は戦後五十年のあいだ、平和と繁栄と言論の自由を享受しつつ、知らず知らずのうちに自らの手で日本語の〈読まれるべき言葉〉を読まない世代を育てていったのである。〈書き言葉〉の本質が読むことにあるのを否定し、文化というものが〈読まれるべき言葉〉を読むことにあるのを否定し、ついには教科書から漱石や鷗外を追い出そうとまでしたのである。そして、誰にでも読めるだけでなく、誰にでも書けるような文章を教科書に載せるという馬鹿げたことをするようになった。」

 千三百年に及ぶ日本人の書き言葉の工夫によって、漢字・ひらがな・カタカナの複雑な混淆。明治から昭和初期にかけての文豪らの西洋語との格闘から生まれた近代文学すなわち「国語」。

 「日本近代文学は、西洋語の翻訳から新しい日本語の〈出版語〉を生むため、そして、その言葉で〈西洋の衝撃〉を受けた日本の〈現実〉について語るため、日本語の古層を掘り返し、日本語がもつあらゆる可能性をさぐりながら花ひらいてきた。日本近代文学を読む習慣さえつければ、近代以前の日本語へさえも朧気に通じる。」

 水村氏は、日本の文化を守るためには、「日本の国語教育は日本近代文学を読み継がせるのに主眼を置くべきである」と再三主張している。
 
 日本語の書き言葉の、世界の他に例を見ない絶妙さについて例えば、こういう例を挙げている。

 「ふらんすに行きたしと思へども
  ふらんすはあまりに遠し
  せめては新しき背広をきて
  きままな旅にいでてみん。

 という例の萩原朔太郎の詩も、最初の二行を

  仏蘭西へ行きたしと思へども
  仏蘭西はあまりに遠し

 に変えてしまうと、朔太郎の詩のなよなよと頼りなげな詩情が消えてしまう。

  フランスへ行きたしと思へども
  フランスはあまりに遠し

 となると、あたりまえの心情をあたりまえに訴えているだけになってしまう。だが、右のような差は、日本語を知らない人にはわかりえない。

 蛇足だが、この詩を口語体にして、

  フランスへ行きたいと思うが
  フランスはあまりに遠い
  せめて新しい背広をきて
  きままな旅にでてみよう

に変えてしまったら、JRの広告以下である。」

 水村氏の言う〈読まれるべき日本語〉に接しない世代が増えてくると、この辺の感覚がだんだんと鈍くなり、いっそのこと、英語で書こうが日本語で書こうが、意味が同じならいいのではない、となろう。だが、そうなったら〈日本文化〉は終わりである。


  

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コメント

日本語の面白さ

そういえば、なでしこ☆さんは、英語に堪能なのでしたね。ますます頑張ってください。小生も遅まきながら、英語にもう少し接してみようと思います(読むだけだけど)。日本語は、本当に世界に例を見ない複雑さを持っているようですね。極東という位置にあって、かつ海に囲まれていたということが、文化の吹き溜まりをなしたのかもしれませんね。

日本語っておもしろいですね!

うたのすけさん、こんばんは!

なでしこ☆日本語がこんなに奥が深い言語とは思いませんでした。
ホント!かなり違いますね!
へ~ぇ、こんなに使う言葉でニュアンスは違うんですね~!日本語って!
面白い!色々気づかせてくれてありがとうございます!
万葉集むずかしいですがここで勉強して、最後まで読んで見ます!

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