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『英語でよむ万葉集』

 『英語でよむ万葉集』 リービ英雄著を読む

 昔から詩の翻訳は不可能だと思っていた。小説は可能であろう、なぜなら小説の命はストーリーだから、ストーリーなら外国語に移せるであろう。学術論文、とくに科学の分野なら何語で読もうが〈同じ内容〉を受け取ることができる。

 しかし、詩の命は響きであり、リズムであり、要するに声に出して読むときの歌―音楽であるから。これを変えてしまうと、まったく別の新しい歌を創ることになる。

 だが、詩は厳密には音楽ではない。単語の一つ一つの意味、そしてその連続体の意味も、重要な要素である。そのため詩は非常に微妙ではあるが意味の世界でもある。

 われわれは『万葉集』に慣れてくると、ついついその歴史的・政治的背景や歌の隠された意味を探ったり、あるいは使われている言葉の統計的推移を考えたり、今の短歌の感覚から判断したりしてしまって、初めて万葉に触れたときのあのなんとも言えぬ新鮮な感覚、新しい言葉の世界というものを、ついつい忘れてしまいがちである。

 この『英語でよむ万葉集』は、もちろん半信半疑で手にしたのだが、読み進むうちに成るほどと合点した。というのは、作者は一つ一つの歌をどのように英語に出来るのか四苦八苦しているのだが、その手続きを読む小生は、あの初めての万葉、意味とも音楽とも言えないような、あの感覚を呼び戻したのである。

 作者はどういうつもりか知らないが、英訳作業に伴って見えてくるのは、何千年もの間、口と耳だけで豊かに生活していた人たちが、中国から入ってきた便利なしかし限定的で融通の利かぬ漢字を使用して、なんとか大和民族の歌を書き記そうとしたことだった。

 それは、たとえて言えば、われわれが知っている墨書の美しさを、便利なパソコンの規格文字だけで、なんとか伝えようと工夫しようとするようなものだ。それほど、あの何千年と口から口へと歌い継がれてきた神話的・自然的・生命的・直接的な精神を、ぎこちない記号で表すことの難しさがあったと想像する。もちろん万葉と一口で言っても、その最古の歌から最新の歌まで何百年という隔たりがあって、文字化の困難はだいぶん軽減していったであろうが。しかし、それと同時に、あの神話的な抒情は衰退していったが。

 まあ、そのようなことを漠然と想像した。一例を挙げよう。(原歌と英訳とその説明がセットになっている。)

 「 鳴呼見(あみ)の浦に 船乗りすらむ 少女(おとめ)らが 玉裳(たまも)のすそに 潮満らむか
  On Ami bay, the girls must now
  Be riding in their boats.
  Does the ride rise
  to touch the trains
  of their beautiful robes?

 ・・・・やわらかな、やわらかな、古代日本語の推測の動詞変化〈らむ〉と〈らむか〉を、〈~しているのだろう〉や〈~しているのだろうか〉と現代の日本語に訳しても、〈must be〉や〈are they doing?〉や〈Could they be doing?〉と現代の英語に訳しても、そのやわらかさは完璧には復元できない。
 想像された〈少女ら〉の精緻で夢幻的な動き、〈鳴呼見の浦に 船乗りすらむ〉を、

  On Ami Bay, the girls must be now
  Be riding in their boats

 と推測の英語で訳す。〈船乗りすらむ〉の美しさは出ない。しかし、〈船に乗って遊んでいるのだろう〉とか〈~違いない〉という現代の日本語にもそれは出ない。
 その〈少女ら〉の〈玉裳のすそに 潮満つらむか〉。現代の日本語では〈潮が満ちているのだろうか〉となるところは、英語で、

   Does the tide rise
  to touch the trains
  of their beautiful robes?

となる。Could the tide be rising? とか、I wonder if・・・と言い換えてもいいが、わざとらしい印象を与えるので、簡単な質問形式にとどめる。云々。」

 もちろん『万葉集』を英語に訳すことなどとてもできない、とあらためて思う。しかし、このようになんとか英語にしよとする努力のうちに、万葉を書き記るそうとした古人の困難な思いの何分の一でも、そして現代からみると新鮮な世界を垣間見ることが出来るような気がした。

 
       
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