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雄略天皇1

 歴代天皇中、小生が知っている範囲では、もっとも関心を引かれるのが雄略天皇です。

 荒々しい暴君として名をはせておられるこの方のエピソードを紹介しましょう。

 自分の御兄さんである安康天皇が、従兄弟の目弱王(まゆわ王)に殺された時、雄略は(この時はまだ若年だった)この報告を聞いて大いに怒って、もう一人の兄である黒日子(くろひこ)に相談に行く。と黒日子はあまり動揺する様子もない。この態度に雄略は腹が立って、この兄の襟元を掴んで外に連れ出し、切り殺した。

 次にもう一人の兄、白日子に事件の報告に行く。すると白日子も特に動揺するわけではない。また腹が立った彼は、白日子の襟を掴んで外に連れ出し、穴を掘って埋め始めるが、白日子は埋められる途中で死んでしまう。(この話はヤマトタケルを彷彿とさせますね)

 そうしてただちに犯人である目弱王を殺すのですが、目弱王は葛城氏系のツブラ臣(おみ)の家に逃げ込む、ツブラ臣は娘の韓媛(カラヒメ)と全財産を差し上げるから許せと言う。しかし、雄略は邸宅に火を掛け全員焼き殺し、しかし韓媛だけは、ちゃかり自分のモノにしてしまう。

 あと従兄弟は二人いるのですが、それもついでに殺してしまうのです。その一人、市辺ノオシハ皇子については、狩に連れ出し、気を逸らせておいて後ろから切るのです。(じつに卑怯なハーゲン!)そして、死体を切って土に埋めてしまう。

 これで、争そうべき皇位継承者はいなくなった。そして即位。

 天皇になった雄略はとても気短です。周囲の者たちが、自分の質問に答えれないでいると即代表者を切り殺す。天皇のために百済から連れて来られたイイ女が他の男と寝たと知っては、二人を張り付けにして焼き殺す。(暴君ネロだね)


 周囲の者たちはビクビクものです。だんだんと怖い天皇だという評判がたちます。

  
 三重の采女(うねめ)は、天皇にお酒を差し上げようとしたとき、ぱらっと欅(ケヤキ)の一葉が杯に入ってしまう、それを知らずに天皇に杯を献上してしまう。天皇それを見て、娘を打ち伏せ、刀を首に刺そうとした(もうヤクザだね)。そのとき、采女はちょっと待って、といって即興に欅の葉を絡ませた宮廷賛美の和歌を歌う。それに引き続き皇后が、そして天皇が歌い、この歌をもって采女を褒め称え褒美をあげた。

 じつはこの荒々しい雄略天皇が歌を愛でるという点に、小生は興味を引かれるのです。奈良朝末の詩人たちが『万葉集』の第一に雄略天皇御製をおいた意味を想います。

 「籠(こ)もよ み籠もち 掘串(ふくし)もよ み掘串もち この岡に 菜摘ます子 家告(の)らせ 名告のらさね ・・・・」

 これじつに〈みやび〉の実践でなくてなんでしょう。そして和歌と荒御魂とは源泉を同じくしているということを、かの詩人たちは直感していたのではないでしょうか。

 また、こんな面白いエピソードもありますね。

 天皇が遊びに行った時、川で洗濯をしていた少女がいた。なかなか容姿端麗だ。

天皇 「あなたの名前は」

少女 「引田部赤猪子(あかいこ)です」

天皇  「そのうち宮中に呼ぶから、誰とも結婚するんじゃないよ」そういって、天皇は還っていかれた。

 そして、赤猪子はお召を待つこと幾十年。何の音沙汰もなく、80歳の坂を越えてしまった、赤猪子ついに我慢が出来ず、沢山の結納品を持ってこちらから押しかける。

天皇 「婆さん、何の用でここへ来たんだい?」

赤猪子 「えっ、お忘れですか。ずっと操を守ってこれまで待っていたのですよ。もう80歳を越えて容貌も衰え、駄目と承知の上で、でもついに我慢が出来ずやって来たのです。あなた約束したはずでしょ。」

天皇 「おお、そうなの。でも俺そんなこと言ったかなぁ。ころっと忘れていたよ。しかし、虚しく女盛りを過ぎてしまったね。まあなんと気の毒なことよ。結婚してもいいが、80歳過ぎてできるかなぁ」
(おいおい、自分はどうなんだ!)

赤猪子 「ひどい。ああ、若い人が羨ましい。」と言って泣く。天皇は老婆に多くの品々を与えて帰した。

 残酷な話だねぇ。せめてその時からでも宮中においてやったらいいのにね。今なら雄略さん、フェミニストたちから散々な攻撃を受けるでしょうに、「青春を返せ」ってね。

「籠もよ み籠もち・・・」の歌は、この赤猪子と遭遇したときを連想すると言う人がいますが、そう思うと、ちょっとガックリですね。まあ、野で菜っ葉を摘んでいるのと川で洗濯しているのとは、状況がぜんぜん異なりますから、違うと思いますけど。雄略天皇は、外で少女を見ればおそらく常に新鮮に感じ、声をかけておられたのでしょう。(ドンファンですね)

 しかし、小生は赤猪子の話は、雄略天皇の無頓着さをよく表していると思う。彼の残酷さは、ちょうど幼児がバッタやカマキリの脚をちぎって遊んでいる様を想像させ、それは彼の純潔さを物語るのではないでしょうか。(サド侯爵みたいにね。それほどマニヤックではないけれど)

                              つづく

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