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貞明皇后御歌12

   養蚕をはじめけるころ(大正2年)
 かりそめにはじめしこがひわがいのち
   あらむかぎりと思ひなりぬる


 こがひとは蚕を飼うこと。貞明皇后といえば養蚕とくる、という人もいるのではないかと思われるくらい、〈お蚕さん〉に力を入れられた。幼いころ、あの武蔵野の農家で親しく触れられた蚕の感触は一生離れることはなかった。

 紀元前の大昔、中国で始まった養蚕は、まず西洋に伝わり、日本には2世紀ごろに伝わったらしい。まさにシルクロード。蚕は天の虫と書くほど貴重な虫だった。わが国では天皇もそれを重視し、いつしか宮中でも養蚕をするようになったのですね。雄略紀にも「天皇、后妃をして親しく桑こかしめて、蚕の事を勧めむと欲す」と書かれている。

 そして、明治の御代になって、昭憲皇太后(明治天皇妃)が宮中での〈ご養蚕〉を復活なされて以来、平成の現在にいたるまで、天皇に稲作があるように、皇后は養蚕を続けられている(皇后御親蚕)。

    蚕糸会に(大正3年)
 たなすゑのみつぎのためにひく糸の
   長き世かけてはげめとぞおもふ


 たなすゑの調(みつぎ)とは、辞書をみると、上代の物納税の一つとして、女子が織った布地・絹布を納めること、またその織物、とある。ちなみに、すでに『古事記』崇神天皇条の、有名な〈初国しらしし…天皇〉という文句の直前に、「男の弓端(ゆはず)の調(みつき)、女の手末(たなすゑ)の調を貢らしめたまひき」の記載がある。

 明治時代、生糸は重要な輸出品で、富国強兵の礎と言ってもいいくらいだった。ちょうどこの頃から大東亜戦争中にかけて、輸出はどんどん伸びていく。昭和になって生糸の貿易に関していくつか御歌もあるけれど、これらはいずれ後に紹介しましょ。今は一つだけ挙げておきます。

      養蚕につきて(大正12年)
 わが国のとみのもとなるこがひわざ
   いよいよはげめひなもみやこも



 ちなみに明治41年、養蚕と題した漢詩も作られています。西川泰彦氏の意訳を縮めて紹介します。

 畠一杯に柔らかい桑の繁茂するとき
 朝に夕に摘んで蚕の幼虫に与えます。
 飼養を一生懸命するかしないかが、
 後の糸の多少を決すことを知るべきです。

 さらについでに、同じく西川訳の変奏で、同じころの大正天皇の御製詩を紹介します。両陛下の目の付けどころの違い、いつもの如し。

    養蚕(大正元年)
  
 蚕の桑をとる乙女らが籬辺に集まっている。
 終日作業にはげみ夜も眠られぬほどである。
 その辛苦たるや他の同年代らと比べられぬ。
 彼女らは鏡に映る顔の衰を気にする暇もない。


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テーマ : 日本文化 - ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

No title

未見太郎さん、ほんとうにこういう施設を残し、われわれもこれからの人たちも知ってもらいたいですね。文書よりも物のほうがインパクトが強いですね。小生も一度訪れてみたいです。

No title

訂正です、

 製紙でなく製糸です。間違いに気が付いてよかった~~。

すみません。

No title

 ばんざーい!

今朝、群馬県の富岡製紙工場が世界遺産に登録された・・・というニュースが流れましたね。
(近代日本を支えた国家的プロジェクト、)というオーソドックスな注目だけでなく、日本の文化や、日本人気質を世界にむけて発信していってほしいです。
うたのすけさま、御歌の解説ありがとうございました。

No title

未見太郎さん、こんばんは。〈おかいこさん〉、ほんとに日本人らしい響きですね。歴史を動かすのは、われわれの、いわば情念に満ちた日常の生きた心であって、少なくともそれと繋がっていて、歴史の面白さはそういうところからくるのだ、と考えます。
だから、いくら歴史の大家が詳しく書いた本でも、定義と解釈だらけのものはちっとも面白くないですね。

No title

umama01さん、そうでしょうねぇ、あの頃はまだ今ほど整備されていなかったから。だから国家の役割は大事だとは思います。整備と正当性は、はやり国家が監視してくれなければ。で、それはそれとして、個人は己の仕事を第一にしなくては。

No title

繊維には興味があります。最近ではシルクに似たテンセルなんていうものもありますが、天然のしなやかさにはかないませんね。
紀元前からの羊毛、綿、絹織物などは、今日のブログの歌にあるように(国のとみのもとなる)その時代の、主要な産出品として、重要な位置を占めていたのでしょう。わが国でもあの美しい絹の光沢と繊細な肌触りの陰には、乙女たちの辛苦がしのばれます。
歴史を作るのはどの時代も英雄などではなく常民かもしれないで
すね。御製詩にはねぎらいの気持ちがあらわれていますね。

よく使われる・・・おかいこさん・・・という呼称に、日本人のデリカシーをかんじます。

No title

 それでも企業から足元を見られて搾取されるばかりでは……と、懸念してしまうのです。
 労働環境の整備と正当な報酬。
 それがあってこそ、労働の喜びを甘受できるものだと思っておりますので……仕事好きの国民性とは言え……明治の頃はちょっと凄まじかったと聞かされておりますので。。。

No title

umama01さん。国家の最大の役割は、国民のまあ福祉でしょうね。そしてまた、国民は仕事に喜びを見出すのが最大の幸福であるべきだと思います。

No title

このころの労働環境が酷かったと教科書に在り、養蚕に良い印象がない私が来ました。
しかしながら、養蚕こそ富国強兵……自国を守る術の一つだったという事実も知っていて。
現代においては、こういう酷い労働で国を守るような、そういう時代が来ないことを祈るばかりなのですけれど。。。

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