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『パルジファル』

METライヴビューイング『パルジファル』を観た。『パルジファル』を最初から最後まで通して聴いたのは、たぶん2回目か、3回目だ。普段この楽劇を思い出して浮かんでくるのは、いつも沈鬱な気分である。

 今回これを観て浮かんだ定式は、〈神はワグナーにこの作品を創る寿命を与えたのだ〉ということ。つまり、神とワグナーとの共作であり、もっと正確に言えば、共犯である。

 思えば、これはただの楽劇ではない。舞台神聖祭典劇と銘打ってあるのだから、なるほどなと思う。

 やはり、まず考えたのは、ワグナーは『神々の黄昏』で終わっておくべきだったのだ。あれで、あの英雄の死、そして女神の死で終わっておくべきだったのだ。それで、歴史は滅び、ワグナーの芸術の完結にもなったのに、と。

 だから、『パルジファル』は蛇足であり、あれからまたキリスト教の歴史が、西欧の歴史が始まるのかと思うとうんざりする。ニーチェならずとも、ワグナーはキリスト教の前にぬかずいてしまったと言いたくなる。

 まあ、考えようによっては、少年パルジファルは『神々の黄昏』で死んだはずの英雄の復活である。野心家ワグナーはどうしてもキリストを描かずには死ねなかったのかな。西欧はそういうものか。ときに西欧人は無神論を主張する、しかし主張せねばならないほど、彼らはどっぷりとキリスト教に浸かっていて、そこから抜け出せない。

 異教徒ですらないわれわれから見ると、これを大真面目に、深刻な顔をして聴いているのを見ると、時に吹きだしたくなる。ちょうどコンクラーベで選出されたローマ法王が、失礼ながら、あのイカの干物のような帽子をかぶって、何やら意味ありげな、神聖な!儀式をしておられるのを見る時のように。

 そうだ、なぜ笑ってしまうかというと、キリスト教はそこに倫理性を持ちこんでいるからだ。もっともだからこそ、そこにキリスト教の圧倒的強みも矛盾もしたがって弱みも存する。世界中にある単なる古代的宗教儀式なら、例えばわが国の新嘗祭のごとき儀式なら、それはそれで神聖であり、笑うべきことではない。

 幕が開いて閉じるまで、胸に傷を受けた王の苦痛が主調低音のように流れ、最後に「共に苦痛を分かち合える」若者によって癒されるこの物語の5時間にも及ぶ延々とした音楽の流れは、しかし、音楽的には新しい地平を開いたようだ。反ワグナー派のドビュッシーでさえこの音楽のとりわけ第三幕の美しさにほれぼれしている。『ペレアスとメリザンド』を創ったドビュッシーだと思えば、なんとなく分かる。そう思うと、以前よりは、この音楽は全体としてなかなか美しいのではないかと思いたくなるような気がしてくる。

 しかし、死ぬまでに、この曲をもう一度ちゃんと聴くだろうか。



   
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テーマ : 観劇 - ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

No title

未見太郎さんも観ましたか。退屈だとお感じになられなかったのは、さすが繊細な感性のお人だとお見受けします。そのうちワグナー中毒になって苦しまれるかもしれませんね。

No title

umama01さん、おお、魔人ブゥ!これ最後だったっけ?とにかく次から次に思いがけない敵が現れましたね。ワグナーはそれほどでもないです。

No title

こんばんは、うたのすけさま
私もメットシネマで(パルジファル)はじめて観ました。
清らかな愚者、パルジファルにキリストの、愛の救済というテーマで、深刻な理念、思想を盛り込んで描いていました。
イタリアオペラのように、泣かせて笑わせ、ハラハラどきどき・・・
という、娯楽性がなくドイツオペラってストーリーも複雑、曲も難解と、正直初めはひいてしまいました。
ワーグナーといえば、映画(地獄の黙示録)にも使われたワルキューレのような戦闘的なメロディや、荘厳な曲の作曲者という印象をもっていましたが、三幕の終わりに繰り返されるぞくっとするほど静謐で恍惚感にあふれた美しいメロディは、うたのすけさんが書かれたように、彼、ワーグナーが終末期に神というもの(・・・があるとして)の前にひざまづかないでいられなかったのでは、と想像してしまうものでした。
もう一回聴くだろうか、とありますが私は、死ぬ前までにでなく、死の直前に聴きたい一曲になりました。そういう曲があれこれ多くなって困って、死んでなんかいられません?音楽の効用です ね。

No title

 その手の音楽のことはさっぱり分からない上で語りますと……
 ドラゴンボールのセル編・魔人ブゥ編みたいなものじゃないんでしょうか??
 作家本人はもう終わりたいのに、スポンサーの御威光で乗り気でないまま作らざるを得なかったと言うか。。。
 私はワーグナー(ワグナー?)はワルキューレ騎行しか知らないので、このエントリを見る限り、そういう感想を抱きましたが。

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