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幸田露伴

幸田露伴著『五重塔』(明治二十四年)を読んだ。
 これはまた噂どおり凄い傑作だ。しかも、作者二十五歳の時の作とは。天才だな。文体が歌舞伎調で、場面が次々に目に浮かんでくる。西鶴や近松浄瑠璃で育ったんだろう。文章は切れ目なく、途中で主語が替わっていてもおかまいなく続いていて、すべてが明瞭。余分な説明がないのが気持ちよい。
 主人公十兵衛は大工仕事一途の朴訥者で、棟梁にしばしば仕事をもらっているが、あまりに丁寧でゆっくりしているため、仲間からは「のつそり」とあだ名されている。「のつそり」は一見清貧の善人みたいであるが、あまりに仕事一途で、その融通が利かぬこと、読んでいて腹が立ってくるほどだ。
もう一人の副主人公ともいうべき大工の棟梁源太は、もちろん社会的地位は上で金持ちである。彼の妻はここにほれ込んではいる。棟梁は実に気持ちのよい江戸っ子気質である。古きよき江戸の良識が支配している時代のあるとき、五重塔を造るよう源太に寺から依頼がある。そのことを耳に挟んだ十兵衛は、天の声を聞いたかの如く、その仕事を是非に己にと住職に頼みに行く。
十兵衛にとっても源太にとっても、金のためではない、一世一代のおのれの技術を世に示したいがゆえに、なんとしてもその仕事をしたい。住職は二人に、兄弟の譲り合いの寓話を話し、お互いに考えろという。
二人は悩みに悩んだ。十兵衛は身分も考えずこの仕事は己のものだと信じこんだ事が苦しさの元凶だとして、やはり源太に譲ろうと考えた。一方源太は公平に二人で協力して造ろうと十兵衛に提案をした。が、五重塔は一人の入魂の作でなければならぬ考える十兵衛は協力案を拒否し、すべて源太に譲ると言う。
源太も住職の寓話を聴いた手前、己の仕事になったとは言いにくい、そこは江戸っ子、きっぱり十兵衛に譲り、ついでにあらゆるノウハウを十兵衛に提供するとまで言う。ところが、十兵衛はそれも拒否し、己の仕事は一から十まで己がやるべきだと主張するところは、頑固一徹も異様である。源太はこれほどまでの親切をいとも簡単に袖にする十兵衛に激怒する。
結局住職は十兵衛に依頼することになるが、義侠心に富んだ源太は蔭で支える。出来上がった五重塔は暴風にも耐える立派な代物、そして住職は塔に二人の名を書き記した。
 幸田露伴っていう人は、金や名誉や家庭よりもたった一つの天職に打ち込む人を描きたかったのであろう。そうして評伝を読むと、露伴の天職とは、おそらく物書きではなかった、それは如何に生きるべきかの探求であったようだ。そのような人の残した作品をもっと読んでみたい。

                                                   
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