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『遥』石垣さだ子歌集選 その一


石垣さだ子 大正十年~平成八年 三重県亀山市関町生まれ
歌集『遥』は昭和15年から平成7年までに創られた短歌集です。
まさに、昭和時代、特に大東亜戦争勃発から戦後というわが国始まって以来の大悲劇の時代を生きた世代の証言です。
じっくり味わっていただけたらと思います。

昭和十五年(さだ子二十歳)~昭和二十年(終戦)

〈結婚〉

東の空ほのぼのと朱に染め二千六百年の陽いま登る

従ひて行かんと決めて盃を受けしは四月五日小雨降る昼

〈夫の出征〉

万歳に送らるる夫の姿見送らずして涙に堪へる

白銀のまぶしきまでに輝ける朝に一人宮詣する

久々にお茶など立てて味はひぬ冬の夜長の楽しきつどひ

幾年月育てたるこ男子を真珠湾に散らせし母の心は如何に

征きまして夫の便りの絶えし間に桜花咲く春は来たれり

仕事せる手しばしやめぬコロンボを空襲すてふニュース入れば

わびしきは花の盛りのままにして重なり落ちしま白き椿

縁側につどひて語るこの夕べ暑きに悩む勇士もあるらむ

たまさかの鬢の匂も懐かしく友の島田を打あほぎ見ぬ

日本髪美しけれど嫁ぐ友は頭重しとくり返し云ふ

敵誇る母艦二隻をほふ屠りて凱歌は高し珊瑚海戦

夫の勤地味にしあれど尊けれ間接戦に相違なければ

再びも敵軍港に攻め入りし大和男子を見よや米英

南海の潮の香のする便来てふるふ手もどかしく封を切りたり

この日頃一時さへも惜しきかな花の盛は返らずと思へば

世の中の醜き事のみ思ほへていぶせかりけりいさかひし後は

去年の今天に昇りぬ兄弟と語りし庭に風吹き渡る

晴れの秋不動瀧に友と来て語らひつせる昼餉楽しき

海軍移動ありと聞きたるこの夕落ち着きかねつ夫を思ひて

死をもかへり見なくて征く夫は我ゆく先を案じ給へり

我なくも安くすごせとのたまへる夫の願を思へば泣かゆ

我もしも鳥にしあれば夫と共遠き南に行きにしものを

幾度か死闘のり越へ帰り来て再び南に夫は行きます

夫の香の移れる衣なつかしみ抱けば冷たき春の夜豊けし

泣きぬれて見やりし庭に山茶花の花は散りゐぬ春深むらし

ほのかにも文書く窓辺に匂ひ来ぬ征きにし夫のめでし沈丁花

よき人をしのばせる如清らかに沈丁花のはな匂ひ咲きけり

待ちわびし桜は半ば咲きけるに梢をわたる風の冷たき

風吹けばうすくれなゐの花びらは道行く吾の肩に落来ぬ

行く春にせんすべもなく紅の花はハラハラ涙落すか

桜あり桃あり何か楽しけれ春の夕に日参するは

師の君の姿懐かしみ見送れば木々の間より手を振給ふ

見上ぐれバ万葉の花咲乱る梢に近くおぼろ月出ず

誰が為にとぐ白粉とわびしけれ朝な朝なに鏡に問へど

征きし夫の好み給へる曲なれば思出リズムに乗り来て愛し

衣縫ふと窓開けはなてば満ちてくる若葉の色に染まるが如し



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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など - ジャンル : 学問・文化・芸術

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