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初期キリスト像

人々は何ゆえ、またどのようにキリスト像を描いたのだろうか。

 ふつうキリストを描いた聖画像といえば、東方を思い浮かべるのが一般的ではないだろうか。しかし、一番初めのキリスト画像と考えられるものは、はるか西の国で発見された。

イギリスの南西地方、今はドーセットという州にHinton St Mary という村がある。この村は、1963年に偶然発見された古代ローマ時代の邸宅跡で一躍有名になった。壁はとうの昔に崩れ落ちているが、床のモザイク画が奇跡的に残っていて、これが何よりも雄弁にローマ時代のキリスト教を物語る貴重な資料として、いま大英博物館で保管・展示されている。

 すでに一世紀においてローマ帝国はその版図を最大限に広げていた。北はライン川からドナウ川流域、東は今のイラクあたり、南はエジプトから西へ、リビア、モロッコ、ジブラルタル海峡を超える。西はスペインそして海を渡ってイギリス(ブリタニア)に及んでいた。

 そして時は紀元350年。ローマのブリタニア支配の最後の世紀―ここ南西地方の黄金時代であったときに、このいわゆるHinton St Maryのモザイク画が創られたという。大英博物館のニール・マックグレゴール氏の語る所を聴こう。

 このモザイクは、ドーセット地方の石が素材となっている。最初の部屋の床に描かれている絵は、天馬ペガサスに乗った英雄ベレルフォンが蛇とヤギとライオンからなる複合怪獣キマイラをやっつけているところである。ローマ時代ではポピュラーな場面の絵である。

 その向こう側の部屋の床には曼荼羅みたいな絵があって、その中心円には一人の人物が描かれている。それがこれである。
 wikipedia
220px-Roundel_mosaic_christ_hinton_st_mary_british_museum_edit[1]



 この人物は、ひげをきれいに剃り、そのヘアースタイルと衣服は当時のローマのファッションであるという。つまり普通のローマ人様式だ。しかし、うしろにあるPとXという記号は、chi Rhoすなわちギリシャ語でChristの初めの二文字なのである。だからこの描かれた人物像はまずキリストと考えられる。

 当時、だれもキリストを見た人はいないし、どのような風貌の人であるかの文献も残っていない。キリスト死後300年経っているということは、キリスト教はユダヤ教からいわば分派したものだから、神の像を造ってはいけないという掟も、なお生きていたのではなかろうか。

 もし、この像を描いた人が、イエスはユダヤ人だったということを知っていれば、もっと長髪でヒゲもじゃの人物を描いたであろう。しかし、彼はそのようなことに注意を払わなかった。自分がふだん目にしている普通の男性で表すしかなかったようだ。ただこれがキリストを表している証拠には、背景にXPというモノグラム(文字図案)の飾りを描けばいい。

 そして、面白いのは隣にある二つの果物で、これはザクロである。われわれには解らないが、当時の人たちはザクロと言えば、すぐピンときた。これはギリシャ神話にあるぺルセポネが冥界の王ハーディスから貰ってその半分を食べてしまった物語の果物である。

 その半分食べてしまったことから、ペルセポネは一年のうち半分を冥界から地上に出てくることができた。その間は彼女の母デーメーテルが地上に実りをもたらす。その結果、春夏と秋冬という季節が生まれた。この神話が象徴しているのは時の循環、すなわち復活なのだ。

 つまり、このモザイク画の作者は、キリストの復活をギリシャ神話を利用して語っている。それゆえ最初の部屋にあった怪物退治のベレルフォンも十字架上のキリストの復活を、つまり死に対する生の勝利を暗示しているということが解る。

 コンスタンティヌス帝がキリスト教を公認したのが313年。そしてこの当時、紀元350年ころのブリテン島の人々にとって、キリストはいろいろな神々の中の一つでしかなかったし、その表現はギリシャ・ローマ神話から採られたものだった。ここでは、異教とキリスト教の幸福な調和がある。

 ついでにいえば、ザクロの話は、恋人を探しに冥界に行ったオルフェウスや、酒神バッカスもr連想させるという。つまりこれも復活を暗示する。かくしてこのHinton St Maryのモザイク画は、古代世界のすべての希望、最も深い人間の希望を、すなわち死とはより大きな生の充溢のほんの一部分でしかないという思想を表している、ということにはならないか。
 
  

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