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『日本霊異記』

『日本霊異記』の著者は、景戒というお坊さん。時代はだいたい聖武天皇から嵯峨天皇あたりまで生きた人だ。それでこの本は、ちょうど『万葉集』が世に出た時と同じころ書かれたものだ。

 雄略天皇の御代の雷神の話から始まって、桓武天皇の御代の僧の転生話と平城天皇賛に終わる。多くは、8世紀、聖武天皇から桓武天皇の御代における怪異な話だ。この時代は大変な時代であった(いつの世も大変だけど)、とにかく戦乱につぐ戦乱、そして飢饉と疫病の蔓延で、民衆はちょうど山上憶良の貧窮問答歌さながらの状態であったろうと思われる。だからこそ、聖武天皇は巨額を投じてでも大仏を造らねばならなかったし、だからいっそう民衆の生活は苦しくなる、しかし頼るものとては仏の慈悲しかない。

 なんでこんなに苦しい生活をしなければならないのか、きっと悪いことをした報いに違いない。この本の正式名は『日本国現報善悪霊異記』というのだそうで、つまりこの世でのわれわれの行いの善悪によって、その報いがもたらされる。そのような不思議な話を聞き集めたものである。しかし、報いは一代限りではなく、世代を越えてもたらされる。前世で悪いことをしたものだから、今世で苦しい思いをする。そんな話もある。

 ここでの116の奇怪な話は、似たような話が多く、いくつかの類型に分けられる。乞食僧に施し物を拒否した者が悪い死に方をする、お経をあげることによって、あるいは仏像を作ったり、写経をしたりして、罪や困難から救われる。一時的に死んで地獄に行き知人に遇って話を聞く。役人が税金を過酷にとったり誤魔化したりして、地獄で相応の苦しみをする。

 神道は外道だと排斥する話もあれば、生贄を行う異教を捨てて仏教に帰依せよという話もある。概して、神道の神や巫女は神通力があるが、転生やあの世の報いなどに関しては、何の力をも持ちえない。心の善悪や平等というえらく道徳的な話もあれば、現世利益のための信仰を勧めもする。中には、閻魔大王の使いに対して賄賂を推奨する話もある。吉祥天女像のような美しい女が欲しいと願うあまり、ついつい無意識裡に天女像と交わってしまったお坊さん、事がばれて恥ずかしい思いをする、しかし作者は一途な信仰は叶えられると結んでいる。まあ、おおらかというか、ようするに、話はハチャメチャであって、当時の一般民衆がいかに迷信を生き生きと生きていたのかを想像できて面白い。

 それぞれの話は、どこの何某がいついつ、という言葉から始まる。中には、具体的な有名人も出てくる。藤原仲麻呂の乱で功績があったとされる佐伯伊太知は、地獄で閻魔大王にひどく鞭打たれている。傍らの人が理由を訊くと、大王の書記官が言うには、伊太知は生前おこなった善いことと言えば、法華経の69384文字を書き写しただけだが、悪いことはそれよりもっと沢山したからだと答えている。もっとも有名な話は、例の称徳天皇と弓削の道鏡の不倫の話だろう。こういうところを読むと、いまの週刊誌のようで、一の事実から百の面白い話を創作したように感じられる。

 この作者、景戒という人は本当に信仰があったのだろうか、といぶかる。終わりの方で、彼は懺悔して曰く、「ああ、恥ずかしいことだ。せっかくこの世に生まれてきたけれど、生きる手立てに苦労する。因果応報のゆえか、愛欲にまみれ、煩悩の生活を繰り返し、あくせくして身を焼き焦がしている。僧といっても俗生活をしていて妻子をも養わねばならないのに、常に衣住食にこと欠き、安らかな気持ちになれない。昼も夜も餓え凍えている。わたしは前世において他人に施しをしなかったのだ。いやしい、さもしい自分だ」と。

 そうして彼は夢を見る。夢の解釈にいろいろな辺理屈をつける。その後、彼のお堂が狐に荒らされたり、息子や大切な馬が死ぬ。これは何の前兆であろうか。陰陽道や天台の哲理の事はよく解らないし、まだ勉強もしていないので、それを避ける術も知らない。ただただ歎いているだけである、と述べている。

 いまさら陰陽道もなにもないではないか。それなら、彼は他人には因果応報や仏の慈悲について説いても、じっさい彼自身はついに、いろいろな考えに迷わされていたのではなかったか。というよりも、むしろ因果応報を考えている限り、確信に至る道は閉ざされているのではないか、と考えさせられたりもする。


     

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